舌に違和感や痛みを感じたことはありませんか?
もしかしたらその痛みは病気のサインかもしれません。
舌にまつわる病気は一週間弱で治るような軽度のものから死に関わる重度のものまで幅広くあります。
また、これらの病気に現れる症状は以下の2つに分けられます。
- 見た目の異常はないが感覚に痛みや違和感が生じる病気
- 傷やできものなどの異常が目に見えて分かる病気
今回は、舌にまつわるさまざまな病気を症状や原因、対策をふまえて詳しくご紹介していきます。
見た目の異常はないが舌に違和感や痛みがある病気
舌を確認しても見た目に異常はないが、噛む・飲み込むなどの動きをしたり舌に何かしらが触れたりするとピリピリ・イガイガといった不快感がある場合は、以下の病気を発症している可能性があります。
口腔アレルギー症候群(ピリピリ感やかゆみ)
口腔アレルギー症候群とは、特定の野菜や果物を摂取した15分以内に舌や頬粘膜、唇がピリピリ・イガイガしたりかゆみを伴ったりする病気のことです。
野菜や果物に含まれるアレルゲン(アレルギーの原因物質)と花粉に含まれるアレルゲンの構造が類似していることから、花粉症の方がそのアレルゲンを含んだ野菜や果物を摂取するとアレルギー反応を起こしやすいと言われています。
以下の野菜や果物は口腔アレルギー症候群を発症しやすいです。
口腔アレルギー症候群の症状はピリピリ・イガイガといった口腔の感覚のみにあらわれるのが特徴のため、湿疹や赤みなどの症状が現れた場合は口腔アレルギー症候群ではなく食物アレルギーの可能性が高いです。
症状に思い当たる節があったら、まずは耳鼻咽喉科でアレルギーの原因検査をして原因物質を見つけ、薬局で処方されるアレルギー反応を抑制する抗アレルギー薬を定期的に服用しましょう。
また、症状の悪化や再発を防ぐためにも原因である食材の摂取は控えるようにしましょう。
口腔アレルギー症候群は10代~30代の女性に多く見られ、命に関わる病気ではありません。
舌咽神経痛(舌の奥に激しい痛み)
舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)とは、噛む・飲み込む・しゃべる・くしゃみ・あくびなどの動きをしたときに舌の奥や喉、耳周辺に激しい痛みを伴う病気です。
神経や血管が何らかの原因で舌咽神経(舌の奥にある脳神経のひとつ)を圧迫することで発症します。
痛みが軽い場合はテグレトールという鎮静剤が処方されて様子を見ますが、痛みが日常生活に支障をきたしている場合は、原因となる神経や血管を舌咽神経から引き離す切開手術を行う必要があります。
また、圧迫している原因が腫瘍である場合は摘出手術が必要となります。
舌咽神経痛は40代以降の男性に多く見られ、命に関わる病気ではありません。
口腔灼熱症候群(ヒリヒリとした灼熱感)
口腔灼熱症候群はバーニングマウス症候群とも呼ばれ、口腔全体または舌のみにヒリヒリとした灼熱感が生じ、喉の渇きや味覚の違和感、口腔の乾燥などの症状を伴う病気です。
はっきりとした原因は解明されていませんが、一部では更年期や栄養不足(ビタミンや鉄、亜鉛など)が関与していると言われています。
完治が難しいため抗うつ剤や向精神薬が処方されることがありますが、自然に治ることもあります。
口腔を湿らせておくと灼熱感が緩和するため、こまめな水分補給を心掛けたりガムを噛んで唾液の分泌を促したりすると良いでしょう。
口腔灼熱症候群は50代~70代の閉経後の女性に多く見られ、命に関わる病気ではありません。
舌の異常が目に見えて分かる病気
舌の痛みに伴って傷やできものなどの異常が目に見えて分かる場合は、以下のような病気を発症している可能性があります。
口内炎
口内炎とは、舌や頬粘膜、唇の裏や歯肉などの口腔粘膜に発生した炎症の総称で、原因や症状によって以下の5つに分けられます。
- アフタ性口内炎(潰瘍)
- カタル性口内炎(ただれや腫れ)
- ウイルス性口内炎(水疱や白斑、ただれ)
- アレルギー性口内炎(潰瘍やただれ)
- ニコチン性口内炎(潰瘍や白斑、ただれ)
炎症をおこす箇所は人それぞれなので、どの部分に口内炎ができるかは予測できません。
口内を清潔に保てていれば大体は1~2週間程で自然に治ります。
口内炎の種類によって対策方法が少しずつ変わってくるため、詳しくご紹介します。
アフタ性口内炎(潰瘍)
アフタ性口内炎は、疲労やストレス、免疫力の低下、栄養不足や睡眠不足などの生活習慣の乱れが原因となって、口腔粘膜に赤く縁取られた2㎜~10㎜程の白くて丸い潰瘍が発生する病気です。
疲労やストレスを溜め込んだままだったり生活習慣の乱れをそのままにしたりすると口内炎が大きくなったり増えたりしてしまうため、自分の生活を見直して栄養や休息をしっかりととるようにしましょう。
また、ビタミンB2・B6・B1などのビタミンB群には粘膜の健康を維持する働きがあるため、以下の食品を積極的に摂取しましょう。
カタル性口内炎(ただれや腫れ)
カタル性口内炎は、舌や頬粘膜、唇の裏を噛んだときの傷、火傷や虫歯、入れ歯や矯正器具の不具合などの外傷が原因となって、その部分がただれたり赤く腫れたりする病気です。
炎症部分に再び刺激を与えたり入れ歯や矯正器具の不具合をそのままにしたりすると完治が遅くなってしまいます。
以下の飲食物は刺激を与える可能性が高いので、なるべく控えるようにしましょう。
- 辛いもの
- 味の濃いもの
- 熱いもの
- 甘いもの
- アルコール
ウイルス性口内炎(水疱や白斑、ただれ)
ウイルス性口内炎は、ウイルス感染によって発生したヘルペス性口内炎やカンジダ性口内炎を総称したもので、ウイルスに感染しやすい乳幼児に多く見られます。
「ヘルペス性口内炎」は単純ヘルペスウイルスI型というウイルスを持った人との接触やくしゃみなどの飛沫で感染します。39度前後の高熱が出た後に粘膜部分に小さな水疱がたくさんでき、他の口内炎よりもさらに強い痛みを伴います。
「カンジダ性口内炎」は免疫の低下によって口内の常在菌であるカンジダ菌が増殖することで発生します。粘膜に白い苔のようなものが広がり、赤くただれることもあります。
ウイルスは感染しやすいので、感染した場合は他人との接触を避けましょう。
アレルギー性口内炎(潰瘍やただれ)
アレルギー性口内炎は、特定の食品や薬品、銀歯や入れ歯に使われる金属などが原因となって、粘膜に白い潰瘍ができたり赤くただれたるする病気です。
何かしらのアレルギーを持っている人は原因物質を口に入れないようにしましょう。
もし症状が出た場合は口腔外科やかかりつけの病院へ行きましょう。
ニコチン性口内炎(潰瘍や白斑、ただれ)
ニコチン性口内炎は、喫煙時の煙や熱が口内を刺激することが原因となって舌や頬粘膜に白い潰瘍や白斑、赤いただれが生じる病気なので、ヘビースモーカーの方に発症しやすいです。
煙草は口腔だけでなく、体全体に悪影響を及ぼすので禁煙を心掛けましょう。
口腔乾燥症(舌のひび割れや口臭)
口腔乾燥症は「ドライマウス」とも呼ばれ、唾液の分泌量が減少して口腔が乾燥することで発症します。
初期症状は口腔粘膜のヒリヒリ感や粘り気が増すといった感覚のみの異常ですが、症状が進行すると舌がひび割れて痛みを伴うため食事や会話がしにくくなってしまいます。
また、口腔が乾燥すると菌が増殖する傾向があることから、強い口臭が発生します。
唾液の分泌量が減少する原因は以下があげられます。
- 抗うつ剤や鎮静剤の服用による副作用
- 糖尿病
- 口呼吸
- ストレス
- 加齢
口腔の乾燥でお悩みの方は口腔を潤すことが重要なので、こまめに水分補給をしたりガムや梅干し、レモンなどを摂取して唾液の分泌を促したりしましょう。
口腔乾燥症は50代~70代の女性に多く見られ、命に関わる病気ではありません。
口腔白板症(白板または白斑)
口腔白板症(こうくうはくばんしょう)とは、舌や舌周辺の粘膜、頬粘膜に広範囲(1㎝前後~)の剥離しない白い板状または斑状の模様が発生した病気のことで、40代以降の男性に多く見られます。
発生した白板または白斑にものが触れると激痛を伴い、飲食をするとしみる傾向があります。
また、「口腔潜在的悪性疾患(別称:前がん病変)」という癌に進展する可能性のある疾患に属しており、癌化率は4.4%~17.5%です。
特に舌に症状が出た場合は悪性化すると言われており、白板または白斑だけでなく潰瘍や腫瘍、ただれが生じている場合はすでに癌化している可能性があります。
口腔白板症ははっきりとした原因が解明されていませんが、以下が考えられています。
- 煙草やアルコールの大量摂取
- 入れ歯や矯正器具などの不具合
- ビタミン不足
癌化すると命に関わる病気なので、発症したら放置しないですぐに病院を受診しましょう。
治療法として、口腔白板症に有効なビタミンAを投与します。しかし、症状の進行具合によっては症状が出ている部位を採取して検査し、悪性の場合は手術して切除する必要があります。
舌癌(舌の縁にしこり)
舌癌とは口腔癌の一種で、舌の表面を覆っている扁平上皮細胞(へんべいじょうひさいぼう)から発生します。
口腔癌には歯肉癌・唾液腺癌・頬粘膜癌などの種類がありますが、その中でも舌癌の発症割合は約60%を占めています。
舌癌の発症原因は約80%が喫煙だと考えられており、その他の原因である飲酒と併せて習慣がある方は危険性が高まります。
舌癌は50代後半の男性に多く見られますが、近年では女性や20代以降の方の発症も見られます。また、ステージ3(癌の進行度合いのことでステージ1~4まで存在する)になると生存率は約半分、ステージ4になると半分以下になる危険な病気です。
症状として舌の左右の縁部分にしこりが発生するのが特徴で、舌の先端や中央に発生することはありません。
また、初期症状が口内炎に類似していることから、舌癌だと思わずそのままにしてしまい悪化を招いてしまうというケースが多いです。
舌癌の手術方法は症状の進行状況によって異なります。
(1)舌部分切除術
舌部分切除術とは、癌が小さくて浅い場合その部分のみを切除して癌を摘出するという方法で、日帰りまたは数日の入院で済みます。
切除する範囲が小さければ局所麻酔(手術する箇所のみの麻酔)で済みますが、手術時に舌の奥に痛みがある場合は全身麻酔が必要になります。
手術後は舌が多少変形してしまいますが、食事や会話に要する機能や味覚などに障害は残りません。
(2)舌半切除術
舌半切除術とは、癌が舌の縁から中央まで拡がっている場合に癌が発生している側の舌半分を切除して癌を摘出するという方法です。
切除部分が広範囲のため舌の欠損部(舌を失った部分)が少なからずありますが、自分のお腹や腕の肉を移植して補うため舌の機能障害を最低限に抑えることができます。
手術後、一週間程は普通の方法で食事ができないため、経鼻経管栄養(鼻に管を通して体内へと栄養を送る方法)や点滴によって栄養を摂取します。
移植をするため舌の色や形に変化はありますが、食事や会話など日常生活に支障をきたすほどの障害や味覚障害などは残りません。
(3)舌亜全摘出術
舌亜全摘出術とは、癌が舌の縁から中央を超えて半分以上を占めている場合に舌を切除して癌を摘出するという方法です。
舌半切除術と同様に切除した舌の欠損部を移植によって補いますが、手術範囲が広いため手術後の残っている舌の動き具合によって今後の機能障害が変わってきます。
手術後、一週間程は経鼻経管栄養や点滴による栄養管理が行われ、その後は食事をするための動きの練習をします。自らの動きで十分な栄養が摂れるようになるまで1~2ヶ月以上はかかると言われています。
味覚障害は残りませんが、舌を思うように動かせないため咀嚼が不十分であったり柔らかいものしか食べられなかったり、舌を使った発音が難しくなったりと食事や会話に伴う機能の障害は避けられません。
また、飲み込むことが難しいので誤嚥(飲食物や唾液が食道ではなく気管に入ること)を起こしやすくなってしまいます。
(4)舌全摘出術
舌全摘出術とは、癌が舌全体に拡がって全摘出せざるを得ない場合に行われる方法です。
舌の欠損部は体のさまざまな部位から移植をして補います。
手術後は縫合部が安定するまで舌亜全摘出術と同様に経鼻経管や点滴による栄養管理が行われ、その後は食事に伴う動きの練習をします。
自らの動きで十分な栄養が摂れるようになるまで1~2ヶ月以上かかります。
味覚はかろうじてありますが、舌を思うように動かせないため咀嚼が不十分であったりスプーンを喉付近まで持っていかないと飲み込めなかったり、舌を使った発音が難しかったりと、食事や会話に伴う機能の障害は舌亜全摘出術よりも大きいです。
(5)頸部郭清術
頸部郭清術とは、癌が進行して頸部(首)のリンパに転移している場合に舌癌と共にリンパ節とその周辺の組織を摘出する方法です。
頸部のリンパに転移していない場合でも、舌癌の具合によってはこの頸部郭清術が行われることがあります。
手術後は舌全摘出術と同様に食事や会話に伴う機能障害が残ると共に、頸部のリンパ周辺に存在する神経に麻酔が残ったり呼吸機能にも障害が残ったりする可能性があります。
まとめ
舌にまつわる病気は主に以下があります。
「見た目の異常はないが感覚に痛みや違和感が生じる病気」
- 口腔アレルギー症候群
- 舌咽神経痛
- 口腔灼熱症候群
「傷やできものなどの異常が目に見えて分かる病気」
- 口内炎(アフタ性口内炎・カタル性口内炎・ウイルス性口内炎・アレルギー性口内炎・ニコチン性口内炎)
- 口腔乾燥症
- 口腔白板症
- 舌癌
中でも、舌癌は命に関わる病気、口腔白板症は癌に進展する恐れのある病気であるためとても危険です。
舌に何かしらの痛みや違和感がある場合は、些細なことだと思わずに病院へ行って診てもらいましょう。